新作EP、”A Better Tomorrow”についてリリース前に語る。

Muddy Daysボーカルのmuradeです。2022/8/12に我々の2nd EP”A Better Tomorrow”がストリーミングサービスでリリースされます。今回はリリース前に俺がこの作品を作った経緯について、少し語りたいと思う。

俺は2018年ごろ、なんだか右耳が聞こえにくいなーと思って家の近くの病院を訪れた。その結果もっと大きな病院で検査したほうが良いと言われ、紹介された大学病院に行って色々な検査を受けたところ、実は俺の病気は「顔面神経鞘腫」という、顔面神経に沿って腫瘍が出来る病気である事が発覚した。

原因は不明。とても珍しい病気らしい。それから大学病院を転々として、ようやく主治医になってくれるお医者さんを見つけることが出来た。
お医者さんに、この腫瘍はいつか手術で除去する必要があって、手術した場合後遺症で顔面麻痺と右耳が完全に聞こえなくなると言われた。そこまで緊急性が高くなく、今すぐ手術する必要はなかったので、その後3年間放置する選択をした。俺たちは今年活動4年目にあたるのでMuddy Daysの活動期間はほぼこの病気と共に過ごしてた。俺は手術したらもう音楽を以前のようにできなくなるかもしれない。という恐怖が常にあり、この期間の内にMuddy Daysとして遺せるものは出来るだけ沢山残したいと焦っていた。

当時俺は今日1日何か意味のある事をしないときっと後悔する。明日を迎えること、時間が進むことにめちゃくちゃ恐怖感を抱いていた。その反面、常にこんな事を考えてカオスになった気持ちをリセットするために、寝て明日になったら楽になるかもしれない、何か変わるかもしれない。そんな思いで明日を待ち望む相反した感情を常に持っていた。
なんというか、自分の中に未来は無くて、常に今日と明日だけの連続性がある世界で生きていた気がする。

俺は去年10月、ついに手術を受ける決心をした。
術後どこまで後遺症が酷い状態になるのかはやってみないと分からないと言われて、どういう状況になるのか全く読めなかったけど、手術は無事成功した。お医者さんから言われた通り、右耳は完全に聞こえなくなり、顔の右側は麻痺でほぼ動かなくなったけど。

手術が終わって意識を取り戻してから最初にやった事がとりあえず歌う事だった。もうゾンビみたいな状態だったから歌う以前の状態だったけど、それでもガラガラの状態の声が出て、メロディをほんの少しなぞれた気がして安心した。それからリハビリして、歌の練習して、また以前のように音楽が出来そうな感じが掴めてきた時は本当に嬉しかった。数ヶ月バンドとして活動休止したけど、カムバックする事が出来た。手放しで明日、未来を迎えるのがこんなに嬉しい事なんて本当に久々だった。

この数年間、支えくれた友達、パートナー、Muddy Daysのメンバー、家族に本当に感謝している。この病気の事をバンドメンバーに言うのは本当に辛かった。数年間に一緒にずっとやってきた中で、もしかしたらもう2度と以前のようにプレイできなくなるかもしれないなんてなかなか言えなかった。
なるべく重くならないように、いつもの練習前にみんなに手術受ける事を伝えたんだけど、さらっと受け入れてくれた。手術前後も激励のメッセージをくれた。本当にありがとう。
そんな感じで、今日という1日にどうやって意味を持たせるのか。そして明日が迎えにくるという恐怖、葛藤、憔悴、そして希望について歌ったりしている。

音楽性の面に触れると、前作の1st”Low&Easy Life”の流れを汲んだ、90sグランジロック、ヒップホップ、ストーナーロックを軸にしたバラエティな音楽性に富んだ作品になってると思う。バンドとしては初のストリングスとかも導入した。ヒップホップとか、ロック以外の音楽ジャンルに影響された曲がいくつかあるけど、あくまでロックバンドとしての立場を誇示した上でのアウトプットだと個人的には思っているのでそういうところも今回の曲達の好きな部分だったりする。

今回の作品、あんまり一曲一曲の統一感は正直そこまでないと思うんだけど、なんていうか俺自身のロックの好きなポイントとして、”いかがわしさ”があるところが好き。次世代の音楽的にも技術的にも優れたアーティストが、もうジャンルの垣根なんて関係ないような色んなものを吸収/融合して見事なグッドミュージックを奏でている中、俺らのはなんていうか溶けきらずにダマになっている感じというか、そういう一種の”B級感”がかなり充満した作品になっていると思う。でも俺としてはそのくらいの粗いフィルターの方が自分にとって身近な感じがするし、音楽性は進化しつつも、そこらへんの場末の小さな会場でやってる感があるバンドでいれたらいいなと思ってる。

今回のEPの”A Better Tomorrow”というタイトルは俺の大好きな香港ヤクザの映画、”男たちの挽歌”の英題でもある。落ちぶれたヤクザが今のまま負け犬として生きていくより、命を賭して返り咲きを目指すって内容なんだけど、俺の状況に少し似たところもあったような気がして、これをタイトルにした。
みんなそれぞれ人生色々あるけど、それに逃げずに立ち向かってより良い明日を手に入れたいと思う事は大事な事なんだなと。

この作品が聴いてくれるみなさんにとって、”より良い明日”を迎えるために少しでも役に立ってくれたら嬉しい。




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